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年間12000アイテムを売るZARAの『AIデザイントレンド予測』の秘密

年間12000アイテムを売るZARA。AIによる『アパレルのデザイントレンド予測』の秘密に迫る

アパレル業界の画像解析AI

ソーシャルメディアが作り出す流行は、マーケティングにおいて最も重要なポジションを占めるようになりました。Instagram で発信されるおしゃれな写真は短時間で拡散され、人々を包み込むようにマーケットに影響を与えます。近年、アパレル業界のマーケティングでは、ソーシャルメディアへの自社情報発信に加えインフルエンサーを使うなどの多角的な拡散戦略でブランドや流行を作り出すための努力を続けています。

また、ソーシャルメディアに溢れる情報は、アパレルメーカーにとって次期商品開発のためのトレンド予測にも活用され始めています。

現在では、Webスクレイピング技術により網羅的に写真情報やそれに付帯する文字情報が収集できるため、例えばグローバル展開するアパレルメーカーなら、国別の好みの色や流行のスタイルなどを解析することで、トレンドを予測するなどの試みがなされています。

多くのメーカーでは、人の感性で大量の写真からトレンドを予測し商品を企画しますが、Webスクレイピングで収集できる情報は膨大で全てを見極めることは難しく、人の作業ではその作業量に限界があります。

アパレル業界でのAIによるトレンド予測

今までのアパレル業界のトレンド予測では「20年ルール」のようにファッションの周期的な流行が信仰されてきました。

多くのブランドではトレンドの過去から周期的な変化を見出したのち、ファッションウィークなどでのファッションショー、社会情勢、自社の売上データ分析などを加味し、専任のフォーキャスターやクリエイターなどが、トレンドを予測するのが一般的です。つまり、シーズンごとのサイクルでトレンドを予測し新しいファッションを提供しています。

しかしながら、InstagramTik-Tokなどのソーシャルメディアが台頭し、インフルエンサーたちが毎日発信する写真や動画が、世界中の共感を得るようになり、流行のサイクルがどんどん短くなってきています。

アパレルの世界では、最新情報をいち早く収集し、AIアルゴリズムを駆使してトレンドを迅速にキャッチアップすることは不可欠です。

感性が最優先と思われてきたアパレル業界のトレンド予測でも、AI技術の導入が加速しています。

特に変化の激しいファストファッション業界では、トレンド予測のみならず、サプライチェーンの変革、マーケティング、広告宣伝などの幅広い分野でAIを活用し、サステナビリティーと利益の向上を実現しています。

例えば、スウェーデンのH&Mはトレンド解析のために200人以上のデータサイエンティストを雇用しました。AI導入は、トレンド予測で売れる商品を見出すことのみならず、人気商品の在庫補充についても早期にワーニングを発するなどにより、余剰在庫や製品廃棄を大幅に削減し効率の良い生産と流通を支えています。

2019年にラトガースビジネスレビューに掲載された研究によると、生地の15%が裁断段階で放棄され、毎年6億ドル以上の売れ残りの商品が燃やされています。

アパレル企業がAIを使えば、最適化された生産と流通の実現でこれらの膨大な量の廃棄物を軽減できます。

重要なポイントは、近年の敏感な顧客がブランド選択の基準とする、環境への配慮をもAIが提供してくれるという点である。

ZARAの取り組み

1975年にアマンシオ・オルテガによってスペインで創業したZARAは、ファストファッションのパイオニアであり、今では世界中に2200店舗以上を展開し、さらにeコマースでも大成功を収めています。

流行を先取りするZARA2週間ごとに新しいデザインを店舗に届けており、年間12,000ものデザインの新製品(衣類、アクセサリー、靴、香水、美容)を生み出しています。

通常のファストファッションブランドでのアパレルデザインの変更は10~14週毎といわれる中、流行を先取りするZARAがどのようにしてトレンドを予測し素早く新しいデザインを生み出しているのでしょうか。

3D Cadを活用するデザイン現場から世界中に繋がった自社生産拠点でのスムーズな連携や流通機能が一体となったシステムが、スピードを実現しています。

ZARAでは、このシステムをサポートするデータサイエンスやAIに大きな投資をしています。具体的には、”#Jetlore”のAI消費者行動予測プラットフォームや、スペインのビッグデータ企業”El Arete de Medirn”のデータ解析に加え、IoTを活用したトレーサビリティやロボティックスなど、先端技術のイニシアティブが、短い製品サイクルと全ての局面での高い効率の実現を支えています。なかでも今回紹介するコンピュータビジョン(AI画像解析)への取り組みはユニークです。

多くのヒット商品を提供し続けるために、Instagramを始め様々なソーシャルメディアに毎日投稿される300万枚の画像を分析しています。解析された画像はアルゴリズムによりそのトレンドを予測して、デザイン/マーケティング/ビジュアル/マーチャンダイジングなど幅広い分野で活用されます。

ソーシャルメディアから収集した画像は消費サイクルに従い、エッジの効いたもの / トレンディーなもの / 主流のものなどの分類を行い、次にコンピュータビジョンでそれぞれの画像に2000以上の属性を定義して傾向を決定します。

デザイナー / マーチャンダイザー / マーケッターは、それぞれに最適化されたモニタ画面を使い分析結果の洞察を深めることができるのです。

デザイントレンド予測

では、地域/色/生地/シルエット/デザインなど多くのパラメータで、最も人気のある製品やブランドの関連付けを行います。さらにAIが提供するデザインの流行時期の予測には、デザイナー、マーチャンダイザーなどのコンセンサスを一つにまとめるためにも高い効果を発揮します。例えば、デザイナーがゼブラ柄プリントを提案しても、マーチャンダイザーなどがこれを受け入れるための情報がなくては新しいリスクはおかせません。AIがゼブラ柄の流行時期を予測することで、チームの合意が作られます。

このようにAIは、トレンドを予測することにより、属人的であった製品開発現場のスムーズな決定とスピードアップに大きく貢献しています。

また、AIのコンピュータビジョンによる解析は、ビジュアルマーケティングやオンラインマーチャンダイザーの分野でも活かされています。

ソーシャルメディアやeコマース用の写真撮影に最も魅力的な、スタイル・色・テクチャー・背景・ポーズなどをAIが提案します。

このようにZARAでは、写真のみならずTik-Tokなどのショートムービーなど幅広い領域で、画像や映像を大量に収集し、素早く解析し、短いライフサイクルに対応できるのです。ソーシャルメディアを最大活用し広告に頼ることなく大きな成功を成し遂げています。

近年では、オンライン専門のファストファッションメーカーが人気を集め始めています。店舗への投資をなくし、際限なく効率を高めることで製品のデザインサイクルをさらに縮めています。ファストファッション業界の動向からは目が離せません。

コーネル大学Mengyun Shi博士のファッション写真によるトレンド分析

コンピュータビジョンの世界では、ファッショントレンド分析は大きなテーマになっています。コーネル大学の Mengyun Shi博士による、興味深いファッショントレンド解析のトライアルがあります。

(論文:Using Artificial Intelligence to Analyze Fashion Trends 2020/5/3 :Cornell University https://arxiv.org/abs/2005.00986)

Shi氏は10年以上も前に中国東華大学で洋服デザインを学び、ドルチェ&ガッパーナやジョルジオアルマーニなどからさらに学ぶためにミラノへ本拠を移しました。しかしながら高級ブランドでは新しい技術に興味がなく、それぞれに伝統的な独自スタイルを重視して運営されています。

ミラノの高級ブランドにイノベーションを感じることができなかった彼は、この業界のデータ収集や解析の重要性に気づいていました。ミラノを離れアメリカのコーネル大学でコンピュータサイエンスを習得するため、その門を叩きました。Shi氏は、AIがファッションで果たす役割を認識している服飾デザイナーのデータサイエンティストです。

(参考出典National Association of SCIENCE WRITERS:
https://www.nasw.org/article/closet-database-industry-turns-ai-algorithms-categorizing-and-predicting-fashion
この章の説明図は、この論文の引用です。)

Shi氏らはトレンド解析に先立ち、コンピュータビジョンによってモデル画像からアパレル製品を分類検出するための研究を始め、コーネル大学、コーネルテック、Googleリサーチ、Hearst マガジンが共同で、Fashionpediaというプロジェクトを立ち上げました。(Fashionpedia: https://fashionpedia.github.io/home/index.html)

Fashionpediaでは、R-CNN(*1)により、モデル画像からアパレル製品のパーツを識別分類するための共同研究を公開しています。
(論文:Fashionpedia: Ontology, Segmentation, and Attribute Localization Dataset: https://arxiv.org/abs/2004.12276)

プロジェクトでは、まず物体の検出ときめ細やかな属性認識を統合したタスクを提唱しました。

細かい属性は、言葉と言葉の関連に依存することに着目し、アパレルのカテゴリやパーツとそれらの属性を表す領域に説明として付与するために、言葉による オントロジー とそれに付属する形状(画像マスク)や画像の関連を表現するFashionpedia オントロジーを作り上げました。

インターネット上の商品説明とファッションの専門家によって構築された統一的なファッションオントロジー(ファッションの言葉とパーツの形状やその他の説明情報を関連づけた辞書のようなもの)は、個人の衣服、スタイル、ファッションコレクションを解釈して分類するための豊富な構造(スキーマ)を提供しています。

属性マスクを活用したR-CNN解析

オントロジーに合わせた解析を行うために、R-CNNに属性マスクを加味したオリジナルのR-CNN分類をおこなっています。

マスクとは、右図の緑色の領域のようにポリゴンで表されたジャケットの「形」です。アパレルでは、家具や建物や人などの認識と比較しても、かなり複雑な形状をしていることがわかります。

形状のみならず、人物全体との相対的な面積比など多くのパラメータを複合し、オントロジーデータに照らし合わせて、ジャケット、ドレス、コートなどの分類が行えるよう工夫されています。

Fashionpediaでは、新しい概念である、属性マスク型R-CNNを開発し有望な性能を提示していいます。左の図はマスクへの詳細な説明付の一例です。

下の図は、上半分の属性マスクR-CNNが、下半分のマスクR-CNNで抽出されたパーツに、細かく分類された属性を追加し、パーツの特定や理解をする概念を説明したものです。

このように、一般的なマスクR-CNNに属性マスクC-RNNを併用し、詳細なアパレルパーツを一枚の写真から判定し分類することがこのシステムの特徴です。

これらの研究成果や属性マスクC-RNNのソースコードおよびデータは、Fashionpediaで公開され、ファッション業界でコンピュータビジョンを開発する研究者や企業などに共有されています。

論文中にFashionpediaの検証用写真を使った属性マスクR-CNNの例が示されているので、ここに紹介します。

図の解説:

Fashionpedia検証セットにおける属性マスクR-CNNの結果。マスク、バウンディングボックス、アパレルカテゴリ(カテゴリスコア> 0.6)を示す。また、各画像の上位5つのマスク(属性を含む)からの局所的な属性も示している。正しく予測されたカテゴリとローカライズされた属性は太字で表示される。

※属性C-RNNが、さまざまなポーズに対応できていることがわかる。

このセクションの最初に紹介したように、Shi博士はこれらの基礎研究を基に、アパレルのトレンド予測に挑戦しています。

(論文:Using Artificial Intelligence to Analyze Fashion Trends 2020/5/3 :Cornell University https://arxiv.org/abs/2005.00986 この章の説明図は、この論文の引用です。)

研究では、まずハイエンドファッションのスタイルトレンドを見つけるため、ニューヨークファッションショーのランウェイの動画から作成した映像を解析し、どのようなファッションが流行するかを予測し、その結果を世界的ファッショントレンド雑誌の、Vogue, ELLE, Harper’s BAZAAR のエディターの測をまとめたトレンドと比較しています。

以下の図は、AIによるファッショントレンドを見つけるための解析手順です。今回の実験では、前述のFashionpediaオントロジーを活用し、解析には新たに、「Faster R-CNN」と呼ばれる強力なA.I.アルゴリズムを利用(Ren et al.、2015)しました。

提案するA.I.システムの有効性を検証するために、ドルチェ&ガッバーナ2018年春のプレタポルテコレクションから16のルックを分析するためにA.I.アルゴリズムを使用しました。

さらに、ニューヨーク、ロンドン、ミラノ、パリで発表された2018年春夏コレクション46点のランウェイ画像1844枚に対しても分析実験を行いました。

特にランウェイ映像(動画)からの属性検出には、歩くファッションモデルを見失わないように、「画像分割」という手法を採用しています。画像分割は、コンピュータビジョンで画像中の物体や境界線(直線、曲線など)を自動的に探し出すために一般的に用いられる技術です。

ランウェイを動くモデルの認識の様子は、下図の通りです。これらドレスの事例では、85%以上と非常に高い信頼性で正しく分類することができています。

分析結果では、ブランドが常に提唱している “the sweet life “のライフスタイルに合致するもので、ローズ、サマー、キュート、パーティなどのスタイルが含まれているのがわかります。

また、花柄6点(うち1点はレース付き)、抽象柄5点、ドレスの形状はマキシ丈またはミディアム丈を正しく認識しました。

これは、ドレス丈が膝と足首の間であることが主な原因です(図4-1)。このAIモデルは、2つのドレスをボディコンシャスとして検出しました(図4-2、図4-6)。古典的な砂時計の形とコルセット仕立ては、デザイナーの特徴的な外観の一つであるため、この結果は非常に有望であると考えています。

トレンド予測のためのクラスタリング

上記ランウェイでのトレンドウオッチ以外にも、ZARAのデータを用いた分析を行なっています。
ZARAのデータには、基幹情報が付与されており2018年夏におけるホットなトレンドを表すファッション要素のみを調査することができました。
取得した属性情報をさまざまな要素でクラスタリングして整理することで、この夏のトレンドを予測しています。
下の図は、ガーメントトレンド(服のタイプ傾向)と詳細な傾向の分析です。

色や素材についても以下のように分類集計しています。

このように、コンピュータビジョンによりデータ化された情報は、さまざまなアルゴリズムで分析やトレンドの予測への活用が可能となりました。現在、この分野の発展はめざましく日々進化を続けています。

次世代の企業を支えるAIテクノロジー

どの企業にとっても、AIへの取り組みは早急に推進すべき課題として検討されています。

サプライチェーン管理/顧客管理/マーケティング/品質管理/製造管理/需要予測/人事管理/採用管理など、あらゆる分野で企業に蓄積されたビッグデータを活用し成長を促すために、AIが実用領域に入りました。

コンシューマ製品を製造/流通する企業にとって、ソーシャルメディアのビジュアルインパクトは無視できない存在となりました。毎秒増殖を続ける写真や動画などの大量のビジュアルデータから、新たなインサイト(知見)を見出すことやトレンド予測などを実現することで短期間でマーケットに合致した製品を提供でき、機動的なシステムの構築が企業業績を左右することは間違いありません。

今回紹介したファストファッション界では、ZARAをはじめFast Retailing やH&M などに加え、Onlineコマースに特化した新しい勢力が、AIを駆使したトレンド予測など機動的な企業運営を軸に伸びはじめています。 

お客様主導で開発するキーウォーカーのAI

私達は、創業以来インターネットに発信される多種多様な情報の活用を命題としており、ShtockData(シュトックデータ)によるWebスクレイピング技術で、多種多様な情報を大量にお客さまに提供してまいりました。

また収集した大量のデータを業務に活かすために、統計解析 / データの見える化 / 業務の自動化 / AIによる判断サービスなど、データの入口から出口まで一貫したサービスを提供しています。 

「お客様主導」のプロジェクトを実現させるため、弊社のデータサイエンティストやシステム開発エンジニアは、日々現場で起こる多様なニーズに、タイムリーな最新技術を応用したシステムやサービスを提供いたします。

アパレル業界においても、ソーシャルメディアに投稿される大量の画像データを取りこぼしなく提供しご好評をいただいております。加えて、AI技術を駆使したアパレル商品分類など様々なシーンでのAI実績があります。

アパレル業界のみならず、あらゆる業種の製品開発支援情報の提供 / 購買意欲を高めるパッケージトレンドの解析 / トレードマークや商標の発見など、画像解析や解析用Web情報収集および機械学習に必要な情報収集などに関するご相談などお気軽にお声がけください。

設立

平成12年11月22日

資本金

6,700万円

代表者

小林 一登

住所

105-0003 東京都港区西新橋一丁目8番1号 REVZO虎ノ門4F

お問い合わせ

03-6384-5911
9:00〜18:00(JST)

事業内容

自然言語処理エンジンの研究開発
ビッグデータの収集・整理・蓄積・可視化
ルーチン業務の自動処理システム提案

主要取引先

共同ピーアール株式会社/ 株式会社ファーストリテイリング/ アデコ株式会社/ カシオ計算機株式会社/ 日本放送協会/ 株式会社ZOZO/ 株式会社東芝/ パナソニック株式会社/ 株式会社リクルート住まいカンパニー/ 総務省統計局/ 中部国際空港株式会社