製品やサービスの値付けは、あらゆる企業が取り組む重要課題です。 価格戦略の成否によって業績が大きく左右され、企業の存続や発展にも大きく影響します。
昨今、店舗での家電製品などの購入において80%の顧客が店内でオンライン価格と店頭価格を比較するようになったといわれており、オンライン/オフラインに関わらず、小売業にとってeコマースでの販売価格は価格決定に大きな影響を受けざるを得ない状況です。(Amazon Effect – Wikipedia)
「Amazonエフェクト」をご存知ですか?
Amazonが圧倒的な強さで世界中の小売業界に破壊的なインパクトを与えて生まれた言葉です。Amazonエフェクトはアルベルト・カバロによるハーバード大学の詳細な研究など、世界中の専門家に研究されており、全ての小売業界に大きな影響を与えていることが明らかになっています。
Amazonがもたらした、柔軟な価格戦略 / 豊富な商品群 / 短時間での配送システムなどは、一般消費者をリアル店舗でのビジネスから、オンラインにシフトさせることとなりました。 Digital Commerce 360によると、米国消費者のe-コマース購入によるAmazonのシェアは、2021年第1四半期に30.7%に達したと述べています。これは、2020年にeコマースが米国の小売売上高の約21.3%を占めるまでに急増したので、小売支出全体の約6.5%をアマゾンが占めていることになります。
このようにAmazonエフェクトは、実店舗の売り上げ減少の主因として挙げられ、実店舗の業績悪化閉店に結びついていると考えられ、2017年には5,300店以上が閉店し、前年比で218%増となりました。
統一的な価格が維持されていた時代には、生産者が主体的に価格をコントロールしていましたが、現代ではより安くマーケットニーズで変化する価格システムが主流になりつつあります。
アルベルト・カバロは、価格の柔軟性とあらゆるマーケットでの均一な価格設定が増加した結果、Amazonエフェクトがインフレ率に大きな影響を与えた可能性を示唆しています。
「オンライン競争が価格設定に与える影響、例えば価格変更の頻度や場所による価格のばらつきの度合いなどに焦点を当てる。このような価格決定の方法の変化は、利益幅の1回限りの引き下げよりもはるかに持続的にインフレ動向に影響を与える可能性がある。 特に、Amazonのようなオンライン小売業者に特徴的な2つの価格設定行動、すなわち、価格の柔軟性の高さと拠点間での均一な価格設定の普及に注目する。これらの要因が組み合わさると、平均的なガソリン価格、名目為替レート、輸入関税などの「全国的」な集約的ショックに対する価格の感度が高くなる可能性がある。」
出典:Alberto F. Cavallo More Amazon Effects: Online Competition and Pricing Behaviors
例えば、為替レートが国内のインフレ率に与える影響について、eコマースでの市場シェアが高い「電子機器」とその反対の「食品・飲料」という2つのカテゴリーをインフレに対する影響を比較して見ます。電子機器で為替影響度が83%なのに対し、食品・飲料では38%しか変動しません。 これは、eコマースでの存在感が高い商品ほど、為替レートの変動に敏感である傾向があることになります。その結果、eコマースで販売される製品はより効率的に価格設定され、時間の経過とともにインフレ率を低下させることにつながると言えます。
また中小規模の生産者について考えてみると従来は、中小規模生産者(下請け)→大規模生産者→卸売業者→小売業者→消費者といった流れから、中小規模生産者(製品)→Amazon→消費者といった流れも大きく増え、中小規模生産者がAmazonを通じて直接商品を提供できる場が増えています。
このように、Amazonは、小売マーケット全体の変革を通じて、生産者やそのサプライチェーンを含む幅広い産業にも影響を与えています。世界全体と比較すると、まだまだeコマース化率の低い日本市場ですが、コロナパンデミックなどで、ネットスーパーなどの eコマースシフトは益々加速すると考えられ、Amazonエフェクトへの対応が急がれると考えられます。
出典:経済産業省 令和元年度内外一体の経済成長戦略構築にかかる国際経済査事業(電子商取引に関する市場調査)(https://www.meti.go.jp/press/2020/07/20200722003/20200722003-1.pdf)
参照:
https://en.wikipedia.org/wiki/Amazon_Effect
https://www.concord-career.com/dictionary/amazon-effect/
https://www.pragmaticinstitute.com/resources/articles/product/the-amazon-effect-dynamic-pricing-done-right/
https://digiday.com/retail/amazon-retailers-experimenting-dynamic-pricing/amp/
https://www.forbes.com/sites/forbescommunicationscouncil/2018/02/22/what-the-amazon-effect-means-for-retailers/?sh=1ad7d8e72ded
https://techcrunch.com/2018/07/24/both-amazon-and-walmart-announce-expanded-grocery-delivery-operations/?guccounter=1
Death by Amazon =「amazon恐怖銘柄指数」、なんだか恐ろしい命名ですよね。 これは、米投資情報会社ビスポーク・インベストメント・グループが2012年2月に設定した株式指標です。Amazonの収益拡大や新規事業参入などの Amazonエフェクトで大きな影響を受けると考えられる、米国の小売関連企業銘柄54社で構成されています。(その後も改変され続けています。)
この指標を構成するのは、「JCペニー」「ウォルマート」「コストコ・ホールセール」「バーンズ・アンド・ノーブル」などをはじめとしたそうそうたる小売企業ですが、その多くは業績悪化や企業整理などの苦境に立たされています。2017年6月のアマゾンによる高級スーパーマケットの「ホールフーズ・マーケット」買収が発表されたときには、Death by Amazon指数は、時価総額ベースで、320億ドルもの下落に見舞われ、日本でも大きなニュースになりました。
「デス・バイ・アマゾン」が急落、米高級スーパー買収の余波続く – 株式マーケット|QUICK Money World –
<デス・バイアマゾンの推移>参照:
https://www.bespokepremium.com/wp-content/uploads/2017/10/B.I.G-Tips-The-Bespoke-Death-By-Amazon-Indices-092517.pdf
https://www.cnbc.com/2017/07/11/stocks-amazon-killling-prime-day.html
https://www.thornburg.com/insight-commentary/global-perspectives/market-insights/death-by-amazon-a-real-though-not-indiscriminate-threat/
このように、Amazonの破壊力は甚大です。事業規模が大きくとも、Amazonの豊富な品揃えやデリバリーのスピードに、今までのやり方の延長で勝負を挑むことは難しくなってきています。
BESPOKEのDeath by Amazon 2017年のアップデート
The Bespoke “Death By Amazon” Indices
2020年版は、会員サービスです。
https://www.bespokepremium.com/big-tips/b-i-g-tips-death-by-amazon-8-20-20/
Amazonなどのメジャーコマースが寡占化するデジタルリテール時代に、小売業者はどの様に価格決定を行うのでしょうか?
価格の柔軟性とは、買い手と売り手の交渉や受給の変化に応じて、変更できる調整可能な価格のことです。 以前の店頭価格の決定では、セールや特売などのイベントに合わせた調整や対面でのお客様との交渉で決定されるのが当たり前でした。
デジタルリテール時代を迎えた現代では、eコマース事業者は瞬時に価格を変更できるようになったために、価格の柔軟性が高まっています。加えて、オンラインでは対面交渉の必要性がなくなり、多くの買い手を引きつけるための電子的な競争に置き換わったと言えます。 ハーバードビジネススクールのAlberto F. Cavallo氏の「さらなるAmazon効果:オンライン競争と価格設定行動」というレポートでは、AmazonとWalmart (online store)で同じ商品の価格持続時間は、Amazonの方が20%も短いと報告しています。
出典:
多くのメジャーなeコマースサイトでは、このように状況に合わせて変化する動的な価格戦略(ダイナミックプライシング)による価格の柔軟性を実現し、ユーザベネフィットの提供と利益の拡大のバランスをとっています。
この様に強力なダイナミックプライシング戦略は、価格を生成するためのアルゴリズムの能力と、提供サービスを取り巻くさまざまなユーザベネフィットの組み合わせで成り立っています。 Amazonでは、膨大なリアルタイムデータを処理して、毎日何百万回もの価格設定を行なっているといわれています。売れ筋商品は1日に何度も価格の変更が行われており、実際にAmazonを利用してみると、検索や購入の最中に価格が変わるなど、その時々の状況に応じて値付けされていることがわかります。
では、ダイナミックプライシングを行うには、商品の価格をどの様に設定すれば良いのでしょうか?また商品価格を決める要素とはどんなものでしょうか?
価格戦略の目標は、「価格認識とビジネスの成果を最大化して、顧客エンゲージメントとロイヤリティを高めるためのチャネルや顧客ごとに目的を持った価格を設定すること」と定義されます。 価格認識とは、顧客が記憶している商品の価格感をいいます。例えば、いつも買っているスポーツドリンクは、コンビニでは160円で、スーパーマーケットでは115円ぐらいといった、消費者の持つ価格への認識を指します。
ビジネスの成果とは、
を指します。
つまり、価格戦略が目指すところは、顧客のお得感に加え、信頼と満足度とを高め来店頻度を上げ、販売量と利益を確保することといえます。 この目標を実現するために、競合他社との差別化を図り、価格の調整を動的に行うことをダイナミックプライシングと呼びますが、これに加えて、品揃え・在庫・見せ方・提供方法・サービスなどを、マーケット状況に合わせて、状況に応じて変化させながら顧客に提供する仕組みを総合的に構築する必要があります。
KVI(キーバリューアイテム)とKVC(キーバリューカテゴリー)については、スーパーマーケットや百貨店など一般小売業の世界では、以前から価格戦略に用いられてきた指標です。 KVIとは、事業の売上と利益を支え、顧客への信頼を築く商品をさし、通常以下の4つの観点でその商品を選定します。
KVCは、KVIを多く含む商品カテゴリーです。 例えば、「スーパーマーケットAは、生鮮食品が良い」や、「コーヒー買う日は、Bストアへいこう」など店舗の強みを作り出すためのツールともなります。 Eコマースなどデジタルでの取引が現在ほど活発になる以前は、KVCやKVIは少なくとも年に一度以上の頻度で見直され、価格戦略の指標として用いられてきました。
Amazonなどのピュアなデジタルプレイヤーは、瞬時に価格や品揃えを変更することが可能となり、KVC/KVIの選定もダイナミックに行うことができます。リアル店舗では、過去の売上実績やエリアの競合調査などで年に数回の頻度で間に合っていたKVC/KVIの見直しも、デジタルリテール時代では高頻度で調整する必要がありそうです。
参照:
https://www.mckinsey.com/industries/retail/our-insights/pricing-in-retail-setting-strategy
https://www.mckinsey.com/business-functions/marketing-and-sales/our-insights/using-big-data-to-make-better-pricing-decisions
https://www.mckinsey.com/industries/retail/our-insights/how-to-win-in-online-grocery-advice-from-a-pioneer
オンラインショッピングでは、消費者にとって価格の透明性は非常に高まっています。 例えば、掃除機を購入するときに、価格比較サイトで一番安く買えるサイトをすぐに発見したり、いくつかのショッピングサイトを比較表示することも普通になりました。買いたい時に居ながらにして比較検討することができるので、もはや消費者は価格認識を持つ必要もなくなりました。 デジタルリテール時代の価格ダイナミクス(力学)は、小売業者が全ての商品をKVIに分類して価格調整してしまうと、競合との底値競争へと陥らせます。
反対に、価格設定のアプローチでKVC/KVIを適切で動的に設定することで、顧客の衝動買いやより高額な商品の購入を促すなどのカスタマージャーニーを提供することや、価格認識の醸成・利益の向上・市場シェア獲得などの企業目標を達成することが可能です。
ダイナミックプライシングを導入しようとする小売業者は、自店の販売データの分析と競合分析を十分に考慮して戦略を立てる必要があります。
モバイル検索や商品レビューなどのリアルタイムデータ更新により、テラバイト単位のデータが生成され、世界のデータ生成量は年間40%の割合で増加すると予測されています。 McKinsey Global Institute によると、「小売企業はこのデータ活用のために新たな人材を採用し、データを活用のために高度なツールを構築して、最大 60% の新たな利益率向上の可能性を追求している」と述べています。
クラウド環境の発展とともに、コンピュータリソースを必要なときに必要なだけを低価格で使える環境が整った現在では、小売業者が所有する過去の全ての取引データや競合の販売データなどを同時にデータウェアハウスなどへ格納することで、高速に現状比較や分析を行うことも一般化しています。
蓄積されたデータをBIツールなどを用いることで、売り上げ情報のみならず、広告効果やマーケティングのための様々なビジネス環境データなどを、一つのグラフや画面で可視化して観察できる現代では、価格戦略をたてるための分析環境が整っています。
※BIツール(BIシステム、ビジネス・インテリジェンス・ツール、英語: Business Intelligence tools)とは、ビジネスインテリジェンスを行うアプリケーションソフトウェア(ツール)を指す。 ExcelなどもBIツールとして用いられる。ただし、データ整形、クロス集計などの操作をより効率的に行え、判断へ至る分析および資料作成の労力を大きく低減させることを謳った製品も多い。 セルフサービス型のBIツールは、経営者など意思決定を行う社員自身がデータアナリストとなり、システムを操作して収集・分析・報告資料作成まで、他人の手を介さず自分自身で行えるアプリケーションソフトウェアである。これを用いて、企業内のシステムで生成されたデータを、社員自身が抽出・加工・分析する。分析されたデータは企業の意思決定に利用される。
実験結果を分析するカテゴリ毎にスコア評価(ヒューリスティックスコアリング)し、価格決定の結果を分析するのが一般的です。 ヒューリスティック・スコアリング・アプローチでは、以下の 4 つのカテゴリの中からいくつかの要素をスコア化し、重み付けを行います。
カテゴリごとに以下の要素をスコアリングするなど、自社の状況に合わせて実施します。
1.消費者需要(例:価格弾力性、価格知覚、バスケット構築力、愛着度)
2.競合(例:店舗やゾーンのルール、競合との価格差、市場シェアの推移)
3.経済性(例:目標小売マージンやコスト転嫁率)
4.カテゴリーダイナミクス(例:在庫レベル、切り下げの効果、在庫切れの影響)
例えば、価格の弾力性は、価格を最適化するための重要な指標となります。しかしながら、それは短期的な買い物客の反応を反映する1つの要因に過ぎません。この分析を時間の経過とともに変化するトラフィックのリード指標として機能する様な、顧客反応を示す様々な指標と組み合わせて初めて高い価値を見いだせます。 価格弾力性要因に加えて、品揃戦略と価格戦略を維持するための様々なガイドラインをヒューリスティックモデルに定義します。
一例を挙げると、競合他社より高すぎる価格設定を避けるために、競争力のあるガイドラインを設定する必要があります。この時たとえ非KVI商品であっても、30~50%以上の価格差があると、顧客の足が遠のく可能性があるなどです。 また、スコアリングルールは、商品カテゴリーごとに設定するのが一般的です。 このように、ヒューリスティックスコアリングの利点は、理解しやすく実行可能な価格設定手法を提供してくれます。
デジタルリテール時代の小売環境では、さらに多くの要素から価格を決定しています。 例えばAmazonの頻繁な価格変更は、様々な要因から成り立っており、 競合他社の価格変化、売れ行き、在庫数などの一般的な指標に加え、レビュー結果、検索ワード、閲覧数など、様々な指標をAIアルゴリズムで処理して、リアルタイムに価格の決定を行なっていると言われています。
また、インターネットの普及により、様々な情報がマーケットに溢れており、これらをダイナミックプライシングやKVIの設定アルゴリズムに組み込むことは、マーケットの変化にいち早く対応した価格戦略を実現するために、重要な要素となっています。
例えば、ログ観察で急にカゴ落ちする比率が高くなったKVIアイテムは、新製品にとって代わられているのか? 他店で安く売られているのか? 季節的な要因なのか? 口コミで悪評が立ったのか? 何かのニュースに載ったのか? などその要因により対策は大きく変わります。 この様に多面的な分析をするためには、広く情報を集めて分析する必要があります。
それらの情報収集を担うのが、Webスクレイピングです。
Webスクレイピングは、インターネットを巡回し、様々な情報を収集分析し、必要なフォーマットに分類して提供してくれます。人手では、到底及ばない量のデータを高速に収集し、提供してくれるので、様々な変化に敏感に対応できるダイナミックプライシングシステムを構築することが可能です。 例えば一般的なeコマースの画面では、商品について様々なカテゴリーの情報を提供し、ユーザを購買に導く工夫がなされています。
図のように、「商品カテゴリー」、「商品名」、「商品説明」、「定価」、「売価」、「商品写真」、「総合評価」、「個別評価」、「評価テキスト」など、1つの商品だけでも多くの種類の情報が表示されています。 別のページでは、「売れ筋ランキング」や「セール商品」、「ポイント還元率」、「送料」、「納期」など、様々な切り口でユーザへの豊富な情報と設計されたカスタマージャーニーで購買へ結びつける工夫がなされています。
また、WebスクレイピングによりSNSで発信される商品情報や、検索順位など幅広い情報収集を行い、それらのデータを分析するためにデータウェアハウスへ格納できます。 格納されたデータをもとに、競合店や様々なメディアが発信する情報を分析し、その結果により構築されたアルゴリズムで、動的なKVI選定やダイナミックプライシングを実現させることが可能です。
この様にダイナミックプライシングの実装には、様々なデータを集約・分析・活用するプラットフォームを構築することで、マーケットの変化をリアルタイムに追随する価格戦略を構築できます。 ダイナミックプライシングを実装した小売環境においては、単純な価格競争で収益性を失うことなく、総合的な知見で価格戦略を構築し、適切に調整された価格で利益の向上を目指すことが求められています
私達は、創業以来インターネットに発信される多種多様な情報の活用を命題としており、高性能なShtockData(シュトックデータ)によるWebスクレイピングサービスで、多種多様な情報を大量にお客さまに提供してまいりました。
「また収集した大量のデータを業務に活かすために、統計解析 / データの見える化 / 業務の自動化 / AIによる判断サービスなど、データの入口から出口まで一貫したサービスを提供しています。 「お客様主導」のプロジェクトを実現させるため、弊社のデータサイエンティストやシステム開発エンジニアは、日々現場で起こる多様なニーズに、タイムリーな最新技術を応用したシステムやサービスを提供いたします。
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